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神経発達障害に対する臍帯血療法に関するデューク大学の研究および拡大アクセスプログラムについて
17年間にわたり、脳性麻痺や自閉症、その他の神経発達障害がある子供への幹細胞療法を求め、全世界から親たちがデューク大学メディカルセンター(以下、デューク)を訪ねてきました。この間、デュークは、神経発達障害の治療法として臍帯血や臍帯組織の細胞を使用する臨床試験19件に何百例もの小児を登録しました。それらの試験に加えて、デュークは神経発達障害のある小児に対する臍帯血幹細胞輸血の試験外治療を提供してきました。
2010年より前には、米国FDAは臍帯血バンクや臍帯血治療に関して、何も規制を加えていませんでした1。FDAが生物製剤として臍帯血療法を規制するようになると、デュークの治療プログラムの全部がFDAによる治験薬(IND)承認の下で運営されるようになりました。2017年10月からは、小児が自身の臍帯血や兄弟の臍帯血の輸血を受けられるようにするFDA承認済み拡大アクセスプログラム(EAP)に従って、試験外治療が実施されています。このような小児の親たちは、子が生まれた時に民間バンクに有償で保存した臍帯血を供給します。また、親たちは試験外治療を実施する費用をデュークにも金銭を支払ってきました2。一部の親たちはデュークの Family Support Program for Pediatric Transplant and Cellular Therapies (小児移植・細胞療法のための家族支援プログラム)、場合によっては各自の健康保険プランを通して、これらの費用の一部払い戻しを受けてきました2,3。この治療選択肢を試みるべきかどうかという問題をめぐって、何千人もの親たちが議論を交わすオンラインフォーラムや個人的なグループがたくさんあります4-6。
デュークEAPの利益にならないほど評判になっている可能性があると判明しました。17,000を超える家族がEAP登録の順番待ちリストに加わっていますが、運営開始から3.5年の間に治療を受けた小児は464例にとどまります7-9。親たちはEAPの順番待ちリストの長さに不満を抱き、多くが断念してアメリカ国外の合法クリニックか、国内外の非合法クリニック(安全な幹細胞製剤を得ることはできない可能性がある)での幹細胞療法を求め、別の場所へ向かっていきました10。2021年春、デュークは民間臍帯血バンクCryo-Cellとライセンス契約を結ぶことで、この障害を打破しました。その結果、Cryo-Cellが独立した輸血クリニックを開設し、1年当たり1,500を超えるEAP登録家族に治療を効率的に提供することが可能になると考えられます11-13。契約の追加条項については後述します。
突然、声高な反対者のグループが出現し、これはデュークのEAPプログラムの「商業化」であるとして反対するキャンペーンを開始しました。メディアの報道は、「有効性が証明されていない」治療法を用いて自閉症治療(EAPでの診断の1つにすぎない)を促進する研究者を非難した。親たちは、臍帯血療法の可能性を絶賛したり、詐欺として切り捨てたりする、矛盾したストーリーに混乱させられていることだろう。本稿の目的は、特別な支援を必要とする子供を持つ親の視点を特に重視して、このような疑問を取り上げることにあります。始めましょう。
米国FDAは、重大な疾患を抱えた患者が、市場に向けて未だ完全には承認されていない治療法へのアクセスを得られるようにする枠組みを設けています。これは「人道的使用(Compassionate Use)」や「拡大アクセス(Expanded Access)」など、いくつかの名前で呼ばれています。患者グループ全体が同じFDA承認の対象となる場合は、拡大アクセスプログラム(Expanded Access Program=EAP)と呼ばれることが多いです。
拡大アクセスを管理する米国連邦法は連邦規則集(CFR)の一部として公布され、FDAは補足的な「業界向けガイダンス(Guidance for Industry)」を発行しています14,15。拡大アクセスは、「生命を脅かす、または日常の生活に重大で長期的な影響を及ぼす」疾患を抱えた患者に人道的治療を提供するために設計されています。患者は、「同等または十分な代替治療がなく」、「患者への潜在的なベネフィットが潜在的なリスクを上回る」疾患を持っていなければなりません。拡大アクセスのFDA承認は、患者個人や患者のグループを対象とすることができます。1980年代のエイズ危機では、100,000人を超える患者がEAP承認を介して抗レトロウイルス薬へのアクセスを得ました16。FDAのEAP承認のおかげで、重大な疾患を抱えながら、臨床試験に登録することができず他に選択肢がない患者でも、最先端の治療法への人道的アクセスを得ることができます。
連邦法および内部FDAガイダンスにより、医薬品開発者が完全なFDA承認を得ようとすることなく、消費者に製品を販売する手段としてEAPを使用することは認められない旨が極めて明確にされています。EAPの資格を得るには、治験依頼者が「積極的に販売承認を得ようとしている」ことが必要です。つまり、治験依頼者はFDA市販承認に必要なエビデンスが得られる臨床試験を継続する必要があり、EAPにより、それらの試験に患者を募集する能力が損なわれることがないことを示す必要があります。
デュークEAPはさまざまな神経発達疾患を対象とします。例えば、低酸素性虚血性脳症(HIE)、水頭症、失行症、脳性麻痺(CP)、自閉スペクトラム症(ASD)が挙げられますが、この限りではありません。脳性麻痺も自閉症も治療法がなく、生涯にわたる疾患であることがよく知られています。米国疾病対策センター(CDC)は、アメリカでは8歳児の345人に1人に脳性麻痺、54人に1人に自閉症があると推定しています17,18。アメリカでは、これらの疾患と共に生きる患者数は、脳性麻痺で80万人、自閉スペクトラム症で350万人となっています13。デュークEAPの対象となる層は日常機能に著しい障害があり、脳が神経連絡を構築している段階にある年齢の小児です。さらに、家族がデュークEAPに登録できるのは、患者や兄弟のために臍帯血を保存しており、臍帯血ユニットが適格基準を満たす場合に限られます。
多数の研究により、発達障害が家族および社会に直接コストも間接コストも負わせることが明らかにされてきました。慈善団体Let’s Cure CP(脳性麻痺を治そう)によると、脳性麻痺がある小児の3人に1人は歩くことができず、4人に1人は自分で食べることができず、4人に1人は自分で服を着ることができません19。2003年、脳性麻痺の平均生涯コストが921,000ドルと推定されました20。その額の大部分(81%)は、患者および介護者の生産性の喪失など、間接コストによるものです。
脳性麻痺が運動障害を特徴とするのに対し、自閉スペクトラム症は主に言語およびソーシャルスキルの発達に影響を及ぼします。自閉スペクトラム症のある人では、「高い機能を有する」(定型発達経過[neuro-typical passing]とも呼ばれる)とされる傾向がある人から非言語的な人まで、スキルに大きな幅があります21。2014年の研究では、知的障害はない自閉症の個人を支援する平均生涯コストは、140万ドルであることが確認されました。小児期では教育支援のコストの他、親の生産性低下が、成人期では居住設備と生産性低下がその要因となっています22。
本稿は、デュークEAPの治療に参加しようと思う家族が直面する課題の一部をごく簡単に概観したものです。自閉スペクトラム症がある成人の中には、自閉症の「治療」の話に不快感を覚える者もいます。自閉症患者の代弁者も、子供を助けようとしているつもりの親が実際には擬似科学に引っ掛かっている可能性を懸念しています23,24。神経発達障害には細胞療法が有望とする科学的エビデンスは確かなもので(次のセクションを参照)、関与している親のほとんどは自分たちが「完治」ではなく、機能的な「改善」を追い求めています。
これまでの臨床試験の成績は、神経発達障害の小児に臍帯血輸血が有益となることを裏づけるエビデンスとなっています。下記の表では、操作されていない臍帯血細胞を特別に使用して神経発達障害を治療したデューク大学の試験を要約しています。その他、デュークは臍帯組織から得られた細胞を用いて、神経発達障害を治療する臨床試験を実施しているところです。
親たちは、臍帯血から得られた細胞と臍帯組織から得られた細胞の違いにしばしば混乱しています。臍帯血に含まれる幹細胞は、造血幹細胞(HSC)と呼ばれます。臍帯組織から得られた細胞は、間葉系間質細胞(MSC)と呼ばれます。臍帯血に含まれる幹細胞は、臍帯血ユニットに含まれる細胞全体のごく一部です。HSCは臍帯血が幹細胞移植に使用される際に活性がある細胞です。移植時、患者は致死量の化学療法や放射線照射によって前処置を受けた後、ドナー臍帯血によって救済されます。ドナー臍帯血は生着し、新しい免疫系を構築し、永久的なものとなります。
神経発達障害に対する臍帯血療法は臍帯血移植とは異なり、患者に準備レジメンが実施されることはなく、輸注された臍帯血が免疫系を引き継ぐことは求められません。神経発達障害を治療する際は、臍帯血細胞が「生きた薬」、生物学的療法として利用されます。研究者は臍帯血に含まれる細胞のうち、どれが生物学的療法のベネフィットをもたらすか、どのくらい長く体内にとどまるかという問題を積極的に研究しています。
臍帯血投与の安全性は、その子供の自己細胞であるか、HLAが完全または部分的に一致するドナーから提供された細胞であるかを問わず、確実に裏づけられています。全世界で4万人以上が悪性疾患や遺伝性疾患のため臍帯血移植を受けてきました25。脳性麻痺の診断に限れば、幹細胞に関する臨床試験が全世界でこれまでに77件実施され、小児2427例以上が治療されています。その中には臍帯血で治療された900例以上が含まれます(これらの数字はデュークEAP登録患者を含めるように調整されています)9,26。臍帯血投与は、正しく訓練された医療機関によって提供、取り扱いが行われる場合、極めて安全です。親たちの疑問は、試みる価値があるかどうかです。
新しいタイプの治療法が開発される場合は必ず、初期の試験は安全性および実行可能性を確認することだけが目的となります。大きな改善が得られた患者個人の事例報告がありますが、厳格な研究では、そのような利益をプラセボ群と比較する追跡調査が必要です。さらに、患者が「プラセボ効果」だけで改善することも多いため、患者も医師も誰がプラセボでなく実際の治療を受けているか分からないようにするため、2つのグループを盲検化する必要があります。これは「無作為化盲検対照試験」と呼ばれます。
発達障害の小児の親たちは、プラセボと比較する従来の試験には登録したがらないのが常です。親たちは子供が治療を受ける機会を確実なものにしたいと考えます。脳性麻痺や自閉症のような疾患の小児を登録するため、主な研究センターは「クロスオーバー」試験を用意しています。クロスオーバー試験では、治療群に割り付けられた患者が最初は細胞療法を、最後はプラセボ輸血を受けるのに対し、対照群は最初にプラセボ輸血を、最後に細胞療法を受けます。これは、試験に参加する小児がすべて細胞療法を受けられることを保証するものです。しかし、研究者にとっては、細胞療法から得られるベネフィットを測定する力がいっそう問われることになります。まず、小児スコアは治療なしでも年齢に伴って自然に改善するため、改善した機能スコアを、変動するベースラインと比較する必要があります。さらに、被験者がクロスオーバー以前に得た6ヵ月~12ヵ月の先行開始の間に細胞療法から得られた能力の優位性を検出する必要があります。考えられる落とし穴の例として、Sutter Healthで自閉症を対象に臍帯血を投与する試験ではまったくベネフィットを明らかにすることができませんでした。これはクロスオーバーが24週間後という早い時期に設定されたことと、用量が低すぎたこと(細胞数1,600万/kg)が原因と考えられます27。
診断、臍帯血HSCに関する試験の名称:NCT番号、状態 | 臨床試験の成績 |
後天性脳損傷、当時FDAから要求されていないためIND番号や試験番号なし、2010年発表 | 現在のEAPの先駆:2004年~2009年にさまざまな脳疾患のある小児184例に自己臍帯血幹細胞(HSC)投与を実施しました。全世界の民間バンク24ヵ所から臍帯血が提供されました。処置は安全で実行可能なことが明らかになりました。成績の体系的な報告はありません。 |
水頭症、当時FDAから要求されていないためIND番号や試験番号なし、2015年発表 | 2006年~2014年に水頭症を抱えて生まれた乳児76例に自己臍帯血HSCの複数回投与を実施しました。大半の症例では分娩前に臍帯血採取が計画されていました。患者は極めて幼少であるため、複数回投与が可能でした。処置は安全で実行可能でした。 |
低酸素性虚血性脳症(HIE)、BabyBac:NCT00593242, 終了済み、2014年発表 | 2009年~2012年に中等症から重症低酸素性虚血性脳症(HIE)を抱えて生まれた乳児23例に自己臍帯血HSC投与を実施しました。これらの患者にはその他全低体温治療が実施され、低体温治療のみ実施された乳児82例と比較を行いました。(この試験は無作為化対照試験として構成されたものではありません)。困難な出産時に臍帯血を採取することは困難でしたが、3ドメインのBayley IIIスコアが85%以上の1年後生存率は臍帯血HSCを投与したグループが74%、臍帯血HSCを投与しなかったグループが41%でした(p=0.04)。 |
低酸素性虚血性脳症(HIE)、BabyBac II:NCT02612155, 終了済み、2020年発表 | 乳児37例を登録した無作為化盲検プラセボ対照試験では、2015年~2019年に生まれた乳児16例に自己臍帯血HSC投与が実施されました。1年後の経過観察では、臍帯血が投与されたグループの方が生存率および機能に良好な傾向が認められました。大半の病院では困難な出産時に臍帯血を効率的に採取することができないため、この多施設試験は十分な登録が得られる前に終了されました。 |
脳性麻痺、CP-AC:NCT01147653, 終了済み、2017年発表 | 痙性脳性麻痺(CP)のある1~6歳の小児63例に自己臍帯血HSC投与を実施しました。この試験では2010年~2016年に実施された無作為化盲検プラセボ対象試験で、2つのグループを1年後にクロスオーバーし、試験開始から2年後まで追跡しました。世界中の民間バンク16ヵ所から臍帯血が提供されました。「臍帯血」群(1回目の輸注時に臍帯血を投与する)では運動機能、および運動経路の脳全体の接続性に予想を有意に上回る改善が認められました。ただし、2,000万/kgを上回る細胞数が投与された場合に限られます(p=0.02)。 |
脳性麻痺、CP Sibling:NCT02599207, 終了、2021年発表 | 痙性脳性麻痺(CP)のある年齢中央値3.7歳の小児15例に同胞間臍帯血HSC輸血を実施しました。民間バンク8ヵ所から臍帯血が提供されました。この試験の目的は、部分的にHLAが一致するドナーから採取された臍帯血の安全性を示すことでした。運動機能の改善はCP-AC試験と同程度でしたが、対照群はありませんでした。 |
脳性麻痺、AcceNT-CP:NCT03473301, 終了済み、要旨は 2021年発表 | この試験は、筋緊張性CPのある小児91例(年齢中央値3.5歳)を3つのグループに別けて治療し、1年間追跡した無作為化非盲検試験です。グループは(1)ベースラインで非血縁ドナーからのHLA部分一致臍帯血HSCを投与するグループ、(2)既製(off-the-shelf)臍帯MSCを投与するグループ、(3)1年間観察した後、非血縁ドナーからのHLA部分一致臍帯血HSCを投与する「自然経過」グループでした。用量は臍帯血が細胞数最大1億/kg、MSCが細胞数200万/kg × 3回でした。この試験は2018年~2020年に実施されましたが、COVID-19パンデミックにより中断がありました。中間結果により、グループ(1)で高用量の臍帯血が投与された小児では運動技能に統計学的に有意(p=0.02)な改善が明らかにされましたが、MSCが投与された小児には改善が認められませんでした。 |
自閉症、ABC:NCT02176317, 終了済み、2017年発表 | 自閉症のある小児25例(年齢中央値4.6歳)に自己臍帯血HSC投与を実施した後、1年間追跡しました。既知の遺伝子異常がないように小児を選別しました。アメリカの民間バンク2ヵ所、公的バンク1ヵ所から臍帯血が提供されました。処置は安全で実行可能でした。試験期間中に多数の行動スコアと生理学的尺度が改善され、追跡調査において使用について評価されました。 |
自閉症、Duke ACT:NCT02847182, 終了済み、 2020年発表。 | この試験は自閉症の小児180例(平均年齢5.5歳)を登録し、6ヵ月後にクロスオーバーを実施する無作為化盲検プラセボ対照試験です。既知の遺伝子異常がある小児は除外されました。全例に臍帯血HSC投与を実施しました。この試験の2つのグループは、初回来院時に臍帯血を投与するグループと6ヵ月後に臍帯血を投与するグループでした。臍帯血は小児自身のもの(自己)か、部分的にHLAが一致するドナーから採取したものでした。クロスオーバー後に1年間、全例を追跡したため、試験は2016年~2019年に実施されました。臍帯血の用量はいずれも細胞数2,500万/kg以上としましたが、ドナーから提供された臍帯血を投与した小児の方が高い平均用量になりました。この試験には、意図されたデザインよりも多数のIQが70未満の小児が登録される瑕疵がありました。この試験では主要評価項目の基準を達成することができませんでした。初回来院時に臍帯血が投与された全小児に有意なVABS-3社会性スケールの変化が認められることが期待されていました。その代わり、非言語性IQが70以上の4~7歳の小児から成るサブグループについては、VABS-3コミュニケーションスケール(p=0.05)、視標追跡(p=0.02)、およびEEG脳スキャン(p=0.02)に有意な改善が認められました。 |
Expanded Access Program: NCT03327467, 現在進行中、要旨は 2019年 および 2021年に発表 | 2021年6月現在、小児2,001例が十分に選別され、464例が治療を受けています。自己臍帯血と同胞臍帯血の比率は50%/50%で、自閉症と診断された小児の割合は60%でした。 |
ごく当たり前の結論となりますが、表に記載されているKurtzberg医師とデューク大学による臨床試験では、低酸素性虚血性脳症(HIE)、脳性麻痺(CP)、および自閉スペクトラム症(ASD)に対し臍帯血細胞療法を受けた小児の能力スコアにおいて、統計学的に有意な改善を確認することができました。表に記載の臨床試験は、査読雑誌に掲載された複数の論文で取り上げられています(引用されている出版物は重要な論文のみであり、完全なリストではありません)8,9,28-37。
ただし、試験の結果は、臍帯血細胞療法が特定の患者に特定の細胞量を投与した時にのみ有意な改善をもたらしたことを示しています。脳性麻痺に関する無作為化対照試験では、用量反応関係が明らかにされ、比較的高い用量(細胞数2,000万個/kg)が投与された小児のみ有意な改善が確認されています。自閉症の場合、無作為化対照試験により、非言語性IQが70以上の小児のみ有意な利益が明らかにされました。このような状況では、試験の結果、患者グループ全体については評価項目の基準を達成することができませんが、サブグループについては有効性が示される場合、医薬品開発者がそのサブグループに焦点を合わせ、さらに試験を実施することになります。これはデュークの研究チームによって採用されているアプローチです。
一部の学者は白黒はっきりした単純な世界、そこでは完全なFDA承認が得られた治療法だけが「有効性が証明(proven)」され、それ以外はすべて「有効性が証明されていません(unproven)」。そのような学者の判断によれば、完全なFDA承認が得られていない治療法は、対照臨床試験で認められる将来性に関係なく、有効性が証明されていない治療法に分類されてしまいます」。
証明された世界観と証明されていない世界観の対立に伴う問題は、Chris Centeno医師の言葉を借りると「誤った二分法」を打ち立ててしまうことです38。患者を治療する臨床医はそのように医療を実践するのではなく、グレーの色調と共に生き、「得られた最善のエビデンス」に基づいて治療を処方しなければなりません38。特に小児科では、医師がFDA承認の範囲外で治療法を処方することはごく普通です。これは「オフラベル(適応外)」使用と呼ばれる診療です。入院している小児の4人に1人以上にオフラベルで処方された薬剤が投与されていると推定されています39。技術的に有効性が証明されていない薬剤の使用は小児科では普通です。成人を対象に検討された薬剤が小児にも有効であることを裏づけるため、新たな臨床試験を実施するためには非常に高い費用を要するからです。2019年にJournal of Pediatrics誌に掲載された解説では、「……オフラベルはオフエビデンスと同義ではありません。薬剤がオフラベルで使用されることは多いですが、何らかの病態と特定の薬剤に関して、その使用の裏づけとなる十分な予備的研究がある可能性もあります40」とされています。
Kurtzberg医師の研究とデュークEAPを攻撃する多数のブログやインタビューについては、声高な批評家グループに責任があります41-46。2つの主題が再び浮かび上がります。第1に、そのような著者は、患者のサブグループに認められた肯定的な結果を無視し、デューク大学の臨床試験がすべて完全な失敗であったと評しています。第2に、「unproven(有効性が証明されていない)」という単語が何度も繰り返されています。マスメディアの書き手は、この「unproven」という非難を真に受けているにすぎません。親たちに「unproven」な自閉症治療を提供する巨大なビジネスが立ち上げられているという主張のように、1つのトピックをセンセーショナルに取り上げるものは何でも、読者を引き寄せるためのクリックベイトのように作用します46。
Cryo-Cell International (ナスダックに上場、略称はCCEL)は、臍帯血療法および臍帯組織療法をさらに開発し、商業化する他、デュークEAP下で承認された患者を治療する独立的な輸血クリニックを立ち上げるため、デューク大学と独占的ライセンス契約を結んでいる企業です。2021年夏、Cryo-Cellは同社が計画している輸血クリニックについて、野心的な数字を提示する投資家向けスライド資料集を作成しました13。スライド資料集には、最初の輸血クリニックが患者1人当たり15,000ドルを請求し、1年当たり2,400万ドルの収益を生み出せると記載されています。デューク大学が数年間、試験外治療に関して同じ金額を請求していたのですが、何よりもまず、それは患者1人当たり料金が15,000ドルとなるという発表で、激しい論争を引き起こすこととなりました45,46。
批評家からは法的な問題が提起されました。細胞療法分野の専門家の一部は、EAPは治療手段を製造する費用しか参加者に請求することができず、治療を実施する費用は請求できないと思い込んでいます。そのような専門家は誤解しており、拡大アクセス下の請求について発表されたガイドラインを読むべきであります47,48。EAPの治験依頼者には治療を実施する費用の他、管理費を請求することが認められています。治験依頼者はプログラムを実施するために(Cryo-Cellのような)第三者を雇用することが認められており、その第三者には利益を得ることが認められています48。治験依頼者が患者に費用を請求する場合、FDAは治験依頼者に費用回収計画の提出を義務づけており、その計画は独立した公認会計士によって審査されなければなりません48。このように、デュークとCryo-Cellがしていることは、完璧に合法的です。デュークによって提案され、Cryo-Cell輸血クリニックによって実施される試験外治療の場合、回収されることになる費用は臍帯血輸血を安全に準備し、実施する医療で、臍帯血そのものの費用ではありません。
Duke Healthがそのクリニックで試験外治療を実施する費用を患者に請求する必要があるという話は、ショッキングに思われるかもしれません。しかし、デュークEAP下で実施された試験外治療は研究助成金では賄われないため、また未だFDA承認を受けていないため、大半の健康保険プランでは払い戻しが行われていません。したがって、デュークEAPにおいて多数の患者を治療する費用は、何らかのかたちで料金を転嫁することができなければ、デュークメディカルセンターの負担となると考えられます。デューク大学の財務部長は、お金をたくさん持っていることと、お金を好きなように使えることの間には大きな差があると指摘しています。彼の言葉によると、「これは本質的に、私たちの既存資金の大部分が使い方を制限されていることと、新しく刺激的なことを行う野心的なプロジェクトが常にデューク大学のあちこちにあることが原因です」49。
デューク大学とCryo-Cellの間で結ばれた契約は、有望な治療法を開発した後に、そのライセンスをバイオテクノロジー企業に与えて商品化するという学術機関活動の一例です。大学が外部からの投資なしで、市場への技術移転を成功させることは極めて困難です50。Cryo-Cellとのパートナーシップは、EAP順番待ちリストに載っている患者に対応するクリニックを単に立ち上げることだけにとどまりません。低酸素性虚血性脳症(HIE)、脳性麻痺、および自閉スペクトラム症の治療法の市販承認につながる後期段階の試験に対するCryo-Cellの支援を約束するものでもあります51。
最終的には、デュークEAPの倫理的側面を財務的側面から切り離す必要があります。倫理学者は、日常生活に影響を及ぼす障害のある小児の人道的治療の費用を家族に請求することは、非倫理的であると強く主張するだろう。しかし、財務面の現実は、デュークにはEAPの規模を拡大する資金がないというものです。つまり、デュークEAPは、Cryo-Cellのような別の事業者が技術のライセンスを得て、商業的に技術を提供しない限り、大きくなることはありません。
このストーリーの最も悲しい部分は、重症の脳性麻痺や自閉症のある小児の親たちには、手の届く実行可能な選択肢が他にないことです。親が細胞療法を試みたいと思った場合、アメリカではデュークEAPが唯一の合法的ルートです。他に親たちのコミュニティで極めて評判がよい選択肢がPanama Stem Cell Instituteです。こちらはFDAの監督対象ではなく、治療費は概して20,000ドルで、Cryo-Cell輸血クリニックの料金案よりも33%高くなります13,52。親たちは既に、著しい障害のある子供を育てるため、百万ドルに近い平均生涯コストに直面しています20,22。別の選択肢と比較して考えれば、親たちがデュークEAPに参加する資金を集めるのを厭わないことは驚くことではありません。また、デュークEAPに参加しようとする親たちは既に、子供やその兄弟の出生時の臍帯血をバンクに預けることにより、考えられる臍帯血療法に投資することを選択しています。
1人のブロガーがFDAに対し、デュークEAPの凍結を要請したことがあります45。FDAはEAP要求の99%を承認しているため、そのようなことは起こりそうにありません53。しかし、FDAがデュークEAPを停止すれば、親たちはどうするでしょうか。その答えは、親たちが別の場所で引き続き幹細胞療法を求めるだろうというものです。そうする中、親たちはさらに多くのお金を費やし、子供を危険にさらすことになるでしょう。神経発達障害に対する幹細胞療法で、諺に登場するほど有名な魔人が瓶の中から出てきます。幹細胞療法の後に著しい改善が認められた小児について、相当数の証言が伝えられています。そのような話はFacebookのグループで共有されており4-6、一部は本財団のニュースレターにも掲載されています54-65。このような証言はすべてが1つの情報源から発信されている訳でなく、1つの施設での治療について述べている訳でもないため、単なる擬似科学の販売キャンペーンではありません。証言は親たちに挑戦の動機を与えています。また、批評家が親たちは自分が何をしているか理解できないほど無防備だと考えているというだけで、親たちが立ち止まることはないでしょう。
Parent’s Guide to Cord Blood Foundation(臍帯血ペアレンツガイド財団)で、私たちは親たちを大人として扱うのがよいと信じています。私たちは正確な情報によって親たちに力を与え、彼らが家族にとって一番の利益となることを自分で判断できるように努めています。私たちは、明らかに危険な治療に手を出さないよう注意する場合を除き、親たちを特定のクリニックに誘導することはしません。Parent’s Guide to Cord Blood Foundationのウェブサイトは、医師からの医学的助言の代わりとなるものではないことを覚えておいてください。
Parent’s Guide to Cord Blood Foundationは、501c3慈善団体として法人化されています。そのような団体として、本財団の年間IRS(国税庁)提出書類は公的な記録事項となります。本財団の完全な昨会計年度は暦年2020年で、その年に本財団は19万3,000ドルの収入を報告しました。これにはCryo-Cell Internationalから提供された無制限の補助金1万5,000ドルが含まれます。本財団は法人化されてから毎年、Cryo-Cellから同程度の寄付を受けてきました。本財団がデューク大学から寄付を受けたことはありません。本財団のニュースレターは月1回発行されており、有料記事は掲載されていません。本財団はデューク大学のJoanne Kurtzberg医師の研究について頻繁に記事を発表してきました。Kurtzberg医師は臍帯血療法の分野において世界で最も多くの成果を上げている最も著名な研究者です。そのため、この業界を扱うニュースレターであれば、同医師の研究について詳しく説明することになります。
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